かつて、ダイヤモンドのほぼ100%はデビアス(本社:南アフリカ共和国ヨハネスブルグ市)の傘下にあるDTC(本社:英国ロンドン)を経由して取引されていました。DTCに加盟してダイヤモンド原石を購入できるのは、サイトホルダーと呼ばれる一部の業者だけでした。

その後、デビアスの拠点であるアフリカ以外にも、オーストラリア、カナダ、ロシアといったダイヤモンド産出国が台頭してきました。また、ダイヤモンド原石取引の不透明性、閉鎖性、一極独占支配に世界の世論の批判が高まりました。こうして、従来の流通ルートを経由しないダイヤモンド原石取引が拡大しました。

1991年にソ連が崩壊すると、ロシア連邦が独立し、これに続いてロシア連邦内のサハ共和国も主権宣言を行いました。全体主義国家の消滅に伴う民主化、自由化、民族自決の波は、サハ共和国が自らの国富=ダイヤモンドを世界市場と直接取引することを可能にしました。

世界におけるダイヤモンド流通の実態については、しばしばその不透明性が指摘されてきました。もちろん、ダイヤモンド輸出入量に関する国別統計資料は存在します。しかし、国際取引に関する公式データはなく、これまでは民間企業の発表がほとんど唯一の根拠でした。ロシア政府もソ連からの伝統で、国富である天然資源全般の採掘量、売上高、輸出入量等を国家機密扱いする傾向があり、アルロサ社の営業報告が公表されるようになったのは、つい数年前のことです。

株式会社JTC社長の桃沢敏幸氏が興味深い記事を雑誌に発表されているので、見てみましょう。桃沢氏によれば、日本は、世界全体のダイヤモンドの15%を消費する、世界第二位のダイヤモンド消費大国です。ちなみにアメリカのダイヤモンド消費量は50%で世界1位ですが、欧州は南アフリカと合わせても14%しかありません

ダイヤモンド原石の取引は今日では自由化されていますが、その90%はインドで研磨されています。最近ではダイヤモンド研磨拠点が中国に移行しつつあるようです。

ここで、今後著しい経済発展が見込まれるといわれるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)各国の経済水準を比べてみましょう。2005年の1人あたりGDP(国内総生産)を見ると、ブラジルが4323ドル、ロシアが5332ドル(露国家統計)、中国が1700ドル(中国国家統計局)、そしてインドが620ドル(GNI、世銀)です。ちなみに日本の1人あたりGDPは3万7566ドル(2005年IMF)で、世界第15位です。


以上のことをみても、ダイヤモンドを産出するサハ共和国にとって、日本が非常に魅力的な市場であること、またダイヤモンドの90%が労働力の安いインドで研磨されている現状がおわかり頂けるかと思います。では、なぜ当社は人件費の高いロシア国内でわざわざダイヤモンドを研磨するのでしょうか?

その理由は、第一に、サハ共和国内でダイヤモンド原石割当枠を獲得するには、現地に研磨工場を持っていなければならないからです。単にダイヤモンド原石を掘って、それを宝石の「材料」または「原料」として国外に転売するだけでは、地域経済の活性化にはつながりません。言い換えれば、サハ共和国内に研磨工場を有するということは、地域住民のための雇用を創出し、地域経済に幾ばくかの貢献していることにもなるのです。そしてこの点において、当社とロシア側当局者の利益が一致しました。

第二に、ロシア連邦サハ(ヤクーチア)共和国内で自らダイヤモンド原石を吟味し、仕入れ、自社工場で研磨し、日本に直輸入し、販売することにより、生地が良いことで名高いロシア産ダイヤモンド、その原産地を証明することが可能になるからです。原産地を証明できるということは、そのダイヤモンドがいわゆる「血塗られた紛争ダイヤ」でも、「下取り中古品」でもないことをも意味しているのです。

【参考】
・桃沢敏幸(株式会社JTC社長)「最新ダイヤモンド流通事情―ダイヤモンドの世界で何が起きているのか?」『ダイヤモンド・ナビ』Vol.2、株式会社インデックス・コミュニケーションズ(2005/12/10)、pp.114-119 ・外務省HP:各国インデックス(ブラジル、ロシア、インド、中国の基礎データ参照)